Case 1:
先日、東京のとあるレストランで朝食を摂っていたところ、ガタンと大きな音がしたので振り向いてみると、入り口付近のコート掛けが盛大に倒れていた。会計を終えた客が自分のコートを取ろうとしたとたんに、バランスを崩したようだ。幸い掛かっていた他のコートが料理に向かってダイビングすることなく、床の埃をかぶっただけで済んだ。私自身のコートはというと、自分の席の背もたれに掛けていた。コート掛けと客の席が接近していて気になったため、コート掛けに掛けることを躊躇したのだ。レストランのコート掛けに空間的な余裕がなく、また頑丈でないことが、店にとっては客を減らす致命的な汚点になる可能性もある。内装と一つ一つの食器にこだわっている店だっただけに残念に思った。
Case 2:
とある冬の晩、東京で、高級ではないが普段使いとしては背伸びの必要な小さなフランス料理レストランに行った。店内が狭いということから、その店の主人の勧めでコートを預けた。するとコートは、外につながる外階段と入り口の間のスペースに掛けられてしまった。寒い冬の日に!帰る時は冷え冷えとしたコートが待っていると思ったら、食事を楽しむ気持ちもしぼんでしまう。
Case 3:
また、シトシトと雨が降る冬のある日、ドイツの小さな町で地元の常連が集うにぎやかなドイツ料理レストランに入った。入り口は広々としていて、食事の服装を整えるのに十分なスペース。1メートルほどの横長の傘立てと、その奥の壁には横長のラジエータ、その上にコートを掛けるスペースがあり、見た目にも空間的な頑丈さと暖かさが伝わってきた。しかし、傘立てに傘を置いたものの、同伴者3名と私はそのガルデローベにコートを掛けることをしなかった。すでにたくさんのコートが掛かっていたことも理由のひとつだが、席から遠いことが気にかかった。また、ガルデローベの上には、「個人の責任で使ってください。」と書かれたプレートが…。確かにコートを間違えられる可能性がある。しかも席から目が届かない。届いたとしても常時気にしていたら美味しく食事が楽しめない。それでもガルデローベを食事の席から離すというのは、料理を運ぶ人にとっても安心だし、客にとっても料理の匂いがつく心配が少ないから、ひとつの選択肢ではあるだろう。
食事の後にもう一度羽織るコートは、入浴やシャワーの後に使うタオルと同じぐらい重要ではないだろうか。バスルームを出た後で、冷えたタオルや濡れたタオルに喜ぶ人はいない。同じように、食事の後では温まった体に適温のコートが待っていてほしいし、雨で濡れたレインコートは食事の間に乾いていてほしい。コートを掛ける空間「ガルデローベ」は、まだまだ工夫の余地がある。レストランの経営を考えたら、冬の寒い日にも、雨の日にも、雪の日にも、風の日にも、店内はにぎわうほうがいい。ではどんなガルデローベをデザインすれば、そんな日にこそ行きたいレストランが生まれるだろう?
PS dialogue 2018.2
ピーエスでは、コートなどの脱ぎ着を快適さからデザインする空間、PS garderobe(ガルデローベ)を提案しています。PS garderobeに関する他のエッセイもご覧ください。
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