年末、旅行に出る代わりに自宅から車で10分のホテルに滞在しました。知っている町でも、拠点が変わると視点も変わるわけで、旅行者と生活者のはざまのような立場で愉しむことができました。そこで気になったのが、ホテルに入ってから時差ボケならぬ「地差ボケ」の回復にかかる過程です。
いわゆる、ホテルに着いてほっと一息。その一息、どのくらいかかりますか?どうやって過ごしますか?窓を開け、荷を解き、シャワーを浴びるか、お茶を一服。もしくは家具の配置換え。。。たとえ非日常を過ごすために訪れる旅先であっても、ホテルという仮の住まいを自分の日常に近づけるための行動をとるのではないでしょうか。カメレオンではありませんが、人間には置かれた環境を察知して、そこに自分を合わせる能力があります。
その大部分は無意識におこなわれている変化の術です。「地差ボケ」とでも呼べそうな、環境の変化に自分の感覚が揺さぶられる現象。一時的には「落ち着かない」状態ではありますが、それは旅の醍醐味のひとつかもしれません。というのも、「地差ボケ」の状態から今いる環境に自分の感覚のピントを合わせるために、感覚は揺れ動きながら日常の思考・活動のルーティンから抜け出していきます。
一定の環境から抜け出して、わざと変化を求める。そこから新しい活動、新しい創造性が生まれてくる可能性があるように思えるのです。たとえば、いつもと違う味覚になったり、読みたい本が出発前の想定と異なったりする経験は少なからずあるのではないでしょうか。それから、普段は意識しないのに、ちょっとした違和感から湿度の変化に気付いたり、就寝時の窓の開閉具合を気にかけたり。
いつもと違う環境は、いつもと違う感覚を生み出します。地差ボケによる感覚の揺れ動きは、よりクリエイティブな活動の発見や、快適さの感覚を磨くトレーニングにつながるかもしれません。その地差ボケの究極は、おそらくダーウィンの説くところの「進化」。旅先で、地差ボケから脱して居心地の良さを得た時、私たちは進化の途上を一歩進んだといえるのではないでしょうか。
PS dialogue 2016.1
“進化真っ盛りの赤ちゃんがみせる地差ボケへの適応力たるや、出かけるたびに驚かされます。窓の外を見るために赤ちゃんはつかまり立ちをマスターしました。” ( PS dialogue staff M )