冬のアゲハの蛹の中

 

ピーエスの東京オフィス外階段の踊り場にある、実り豊かなレモンの木。

そこにひとつ、アゲハ蝶の緑の蛹が付いています。
じっとして動かないその蛹の姿の下で、アゲハ蝶は、いったい何をしているのでしょう?
ぬくぬくと暖を取り眠っているのでしょうか?

いえいえ冬のアゲハ蝶は一生懸命です。
まだ見ぬ暖かい季節のために、今から周到な準備をしています。

 

秋の終わりに、蛹になる適当な場所を見つけたアゲハ蝶の幼虫は、同じ場所を行ったり来たりして糸を張り巡らせます。
そうして、糸の土台に尾部をくっつけて、胸部をしっかり固定する糸を吐いて、体を固定します。しばらくすると、体をくの字に折り曲げてハンモック状態でぶら下がります。
そして頭から皮が裂け始め、脱皮が始まります。
完全に蛹の状態になると、蛹の体内では組織の再構成が起こり、成虫になるための準備が進みます。
そうして通常は、10日から14日ほどで羽化します。

しかし、冬場のアゲハ蝶は、蛹のままの状態で数ヶ月過ごすのです。
越冬を選んだ蛹は、体内の再構成を不完全なままに留め、日照時間を敏感に感じ取り、春の訪れを感じるまでじっと待っています。
アゲハの蛹の冬は、睡眠ではなく、成長の冬なのです。

その姿は、「暖かい服を買おう」「あったまる料理を食べよう」と、今この冬を越すことに必死になっている人間たちとは少し異なる気がします。
大自然は次の季節に向けて、着々と準備を重ねています。
夏は、冬の間に眠っているのではありません。
次の夏に向けてもう一年も前から用意をしているのです。

2016年の夏は、もうこんなところで始まっています。

 

PS dialogue 2016.2

 

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