東京・夏の旅館

夏の東京。世界中で一番暑い街、という人もいる。もちろん数値で見れば気温がもっと高いところはたくさんある。でも、のしかかってくるように重たい湿度と、照りつける日差しをいっぱいに吸い込んで蓄熱したビルやアスファルトから放射される熱によって、東京は天然の温室になる。実際に感じ取られる暑さは、もしかしたら気温が40度になる砂漠よりも過酷なものかもしれない。これは、数値がまだ捉えることが出来ない東京の暑さ。

それに、夏の東京を過酷にするのは、暑さだけではない。涼しさもまた、その一因を成している。外気とあまりにも無関係な涼しさに整えられた室内との落差を感じ続けることは、間接的だが長期的な疲労に繋がる。

夏の東京。ここに、避暑が出来るような旅館があったら。滞在するだけで元気になるような、そんな気候に満たされた旅館があったら。

周りを木々に囲まれた小さな旅館。生い茂る木は日よけになるのと同時に、葉からの蒸散効果でまわりとひんやり自然に涼しくする。室内の空気は、さらっと適度に乾いている。だから、涼しくなくても、暑くさえなければ過ごしやすいのだ。部屋の中にいても、外の気配を感じ、新鮮な空気が巡っているのが分かる。ここでぼんやりしていると、東京の夏に振り回されてすっかり疲れたからだが、ゆっくり息を吹き返すのを感じる。

そんな旅館が、夏の東京にあったら。

PS dialogue 2013.9

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