去年の夏の暑さをあなたは覚えていますか?今年とはどんな風に違いましたか?
うーん、と首をかしげしまいましたか?私たちはどうも、季節を長い間覚えていられないようなのです。去年の冬の寒さも、やっぱり良く思い出せません。
めくるめく豊かさで日本の四季はめぐります。それぞれの季節に、それぞれの花や木があり、味覚があり、美しさがあります。鳴く鳥だって違うのです。目の前の季節に気を取られているうちに、前の季節を忘れてしまうのも、無理のないことかもしれません。
でも、これはすこしもったいない気がしますね。毎年新鮮な気持ちで次の季節を迎えられるのはいいけれど、それではいつまでたっても過ごし方に成熟ってものが生まれてくるはずもありません。せっかく豊かで鮮やかな季節も、消化不良になってしまいます。
でも、前の季節のことは、よく覚えていられないのだから、どうしたらいいのでしょう。
春夏秋冬の家に住んだらどうですか?春夏秋冬の家は、季節ごとに住まい方をかえる家。衣替えをするように、夏は夏の住まい方、秋は秋の住まい方に着替える家。
そうです。夏の服は、去年の夏を覚えています。風通しの良い麻の服は、重たいような熱気を。冬の服はおととしの冬を覚えています。分厚くて頑丈なウールのコートは、隙間にも入り込んでしんしんと冷やす冬の寒気の記憶です。
春夏秋冬の家の夏の家。夏の住まい方に、夏の記憶が宿るでしょう。住まい方を変えるたびに、去年の、一昨年の季節の記憶がそこから浮かび上がってくるはずです。その記憶の堆積が、次の季節を迎えるあなたの暮らしをもっと洗練された粋なものへとかえていきます。
PS dialogue.2013.8