日本の伝統的な民家は、春夏秋冬の衣を纏っていました。
民家の周りには、屋敷林と呼ばれる小さな森があり、暖かさと涼しさを作りだす助けをしていました。
東から南にかけては、ケヤキやムクノキなどの落葉樹が植えられていて、冬は暖かい日差しを受け、夏は暑い日差しを遮る役割がありました。
北から西にかけては、シラカシやスギ、マツなどの常緑樹が植えられていて、防風や防火などの意味がありました。
日の当たらない北側は、よく排水の場所として使われていたため、過湿を防ぐタケが植えられていました。
家の中にも、暖かさと涼しさを作りだす何層もの衣がありました。
縁側や中庭、高床などの風の通り道で涼しさを作り、ふすまや障子などの建具で室温を調節していました。
しかし一番頑丈な衣は、おそらく、「我慢」という衣だったのではないでしょうか。
日本の伝統的家屋は基本的に夏向きです。
しかし、日本(本州)の季節は暑い夏だけでなく、涼しい秋、寒い冬、暖かい春もあり、しかもそれぞれが強い存在感を主張しています。
もしかしたら、1年の半分以上、我慢を纏っていたかもしれません。
技術の進歩は、これを補う新しい衣を差し出してくれるはずでした。
しかし、伝統的な住まいを否定し、寒い冬に対応するために住まいに施した処置は、確かに冬の我慢を緩和するものになりましたが、夏の暑さをいっそう強調する結果も導きました。
気持ちを豊かにする春夏秋冬は、専ら外だけで楽しむようになり、室内では、不快感を解消するべく、冷暖房に極端な働きを強いるばかりではないでしょうか。
せっかく外に豊かな春夏秋冬があるのですから、室内にも春夏秋冬を作りましょう。
春に、夏に、秋に、冬に、どんなライフスタイルを送りますか。
それを考えれば、自ずと、新しい衣を纏った日本の「春夏秋冬の家」が見えてくるでしょう。